母校へ行く

 高校の卒業証明書をもらうため、母校へ行った。我が母校は家からほど遠からぬ場所にあるが、わざわざ行く用事もなかったので訪問するのは実に数年ぶりだった。校舎は僕が通っていた頃よりもいくぶん綺麗になり、ご親切に案内表示板もでき、生徒たちの通学自転車も整然と停められていた。まさに優等生たちが通う進学校といった感じである。

 なにやら中学生と思しき少年少女たちの姿がちらほらと見られたが、今日はどうやら受験生たちの願書提出日だったようだ。どう見ても高校生っぽくない僕とすれ違うと、「こんにちは」と挨拶をしてくる者もいた。なるほど、僕を学校の関係者だと思ったのだろう、心証を良くしておかねばならないのである。競争はすでに始まっているのだ。僕も、にこやかにとは言えないが挨拶を返した。

 こんな場所での心証が良かろうが悪かろうが合否には関係ないのにな。と、斜に構えた態度をとれるのは僕が22歳だからだろう。そんな僕も彼らと同じ年齢の時には、心証を良くしよう、ぼろが出ないようにしようと必死だった。白い靴に白いスクールソックスを履き、学ランの襟のホックを締め、襟元につけた校章が傾いていないか確かめた。髪型はスポーツ刈りだった。

 

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 事務室の窓口に着き、証明書交付願を手に取る。卒業した年度を書く欄に生年月日を書いてしまい、二重線を引いて訂正。「全日制」と書くべきところに「普通科」と書いてしまい訂正。3年時の担当教員の名前はうろ覚えだった。知り合いの教員と出くわさぬように殴り書きで所定欄を埋め、発行手数料の400円とともに事務員に手渡した。証明書は月曜日の13時以降に受け取りが可能になるという。軽く会釈をして、そそくさとその場をあとにした。

 外は日差しは暖かいが、吹きすさぶ風が冷たい。思わずくしゃみをしてしまい、鼻を掻く。その手は煙草くさかった。駐輪場に粗雑に停めた僕の自転車は、風にあおられたせいか倒れていた。